麻原彰晃の誕生 (新潮文庫)

麻原彰晃の誕生 (新潮文庫)の詳細

中沢新一やダンテス・ダイジ、阿含宗など「種本」として使われたものについてはある程度知られているが、西山祥雲についてはこの本が始めて取り上げたのかもしれない。秀逸なノンフィクションで、幼少期から、「ポア」開始くらいまでの麻原彰晃こと松本智津夫についての来歴を、周辺の人物への取材を元に作り上げた本。本人や教団への取材よりも、部外者への取材を重視していて、書名通り、「誕生」までに重点を置いて書いているということなのだろう。テレビを中心としたマスコミ報道としては、完全なインチキで詐欺集団だ、という分かりやすい「悪者」として批判するのが定番だが、この本は少し違う。「麻原はヨーガサークルのリーダーで終わるべき人物であった」と終章で断罪しているが、修行者としてはそれなりに能力のある人物だった、というのが著者の史観というか麻原評価で、そこに戸惑ったり釈然としない人もいるかもしれない。まあ、「超能力」といっても大したものではなく、実社会での生活者としての労苦が消えるわけではない。（「解脱」したとして、貨幣経済の日本社会で生きていくには、金が必要で、そのためには働かなくてはいけない、などなど。修行者が尊敬を集める仏教国ではまた違うのだろうが）物足りない人がいるのは、同様に「狂った」宗教というのはあるにしろ、うまいところ「世俗化」するのが宗教の常だからだろう。創価学会は仏壇焼き討ちなど初期には行っていたが穏健化している。同時期に出てきた「幸福の科学」については、批判を集めつつも学校（中学・高校、大学も申請）を作っているくらいだ。なぜオウムは過激化し、世俗化しなかったのか、そのあたりの「謎」についてはこの本では解けないところだし、良くも悪くも等身大の一人の人物として麻原を捉えているので、そんな人物がなぜ？と、余計に不可解さが残るかもしれない。